
「経験すればわかる」は簡単ではない
こんにちは、
発達障がい支援センターの真鍋良得です。
「とりあえずやってみよう」
この言葉は、多くの人にとっては励ましになります。
ところが、発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)の特性がある人にとっては、とても高いハードルになることがあります。
新しい場所へ行くこと、人と初めて関わること、慣れない仕事に挑戦すること。
こうした経験は、大きな不安を伴う場合があります。
そのため、「経験不足だからできない」のではなく、「経験する機会そのものを持ちにくい」という状況が起こりやすいのです。
そんな時には、経験を積み重ねられる環境づくりが大切になります。
なぜ経験から学ぶことが難しいのか
ASDの人は、一度の失敗が強く記憶に残ることがあります。
例えば、一度発表で言葉に詰まってしまうと、「人前では必ず失敗する」と感じてしまい、その後の挑戦を避けるようになることがあります。
また、先の見通しが立たない状況や、何が起こるかわからない場面では、不安が大きくなりやすい傾向があります。
さらに、一つひとつの出来事を細かく覚えている反面、「今回は前回とは違う状況だから大丈夫」というように、経験を別の場面へ応用することが難しい場合もあります。
そのため、「一度やれば覚えるだろう」と考えるより、「安心して何度も経験できる環境」を整えることが大切です。
安心できる環境が挑戦を後押しする
人は安心できる要素があると、新しいことに挑戦しやすくなります。
これはASDの人だけでなく、誰にでも当てはまることです。
例えば、
- 初めての場所には信頼できる人と一緒に行く
- 不安になったら休憩できる場所を確認しておく
- 好きな持ち物や落ち着くアイテムを持参する
- 当日の流れを写真やイラストで事前に確認する
こうした工夫だけでも、「やってみよう」という気持ちが生まれやすくなります。
安心感を持てるようにすることは、甘えではなく、挑戦するための土台なのです。
「初めて」を減らす
新しいことでも、「知っていること」と結びつけると取り組みやすくなります。
例えば、初めて料理をする時なら、
「この包丁の持ち方は、工作でハサミを使ったときと似ているね。」
初めてアルバイトをする時なら、
「学校で係活動をしていた経験と同じように、役割を覚えていけばいいね。」
このように、過去の経験との共通点を見つけることで、「まったく未知の出来事」が「少し知っていること」に変わります。
新しい経験への不安を小さくするためには、「前にも似たことができた」という感覚を積み重ねることが効果的です。
「何も問題が起きなかった経験」を増やす
不安が強い人ほど、悪い結果を予想してしまいます。
「失敗したらどうしよう。」
「嫌なことが起きたらどうしよう。」
そんなときに役立つのが、「実際には大丈夫だった」という経験を意識して振り返ることです。
例えば、初めて電車に乗る前に不安が10点満点中9点だったとしても、終わったあとに「実際は3点くらいだった」と確認してみる。
あるいは、
「緊張したけれど最後まで参加できた。」
「思っていたより困ることは少なかった。」
と事実を整理してみます。
「どうせなんとかなる」と頑張ってみるよりも、「やってみたら大丈夫だった」という小さな経験を増やしていくほうが、次の挑戦への自信につながります。
小さな成功を積み重ねることが未来を変える
ASDの人が成長するために必要なのは、無理に勇気を出すことではありません。
挑戦しやすい環境を整え、小さな成功体験を少しずつ積み重ねることです。
その一歩が積み重なれば、「できた」という経験が増え、自信へと変わっていきます。
経験は、人を成長させます。
だから、無理に「経験が必要」と考えるだけではなく、「経験できる環境」を整えることが、経験を積みながら成長する機会をつくる第一歩になるのではないでしょうか。
